連載

新刊探訪 vol.1

『ポルトベーロの魔女』/パウロ・コエーリョ 世界中で1億人に近い読者に支持される『アルケミスト』の著者、パウロ・コエーリョ氏。新刊『ポルトベーロの魔女』に込められた様々な思い、そして彼のプライベートについて伺った。

人間は絶えず変わっていく 旅を通じて自分を見つめるべき

———世界中を旅しているコエーリョさんですが、旅の魅力や旅から得られるものとは? また、旅は作品にどう反映されるのでしょうか?
旅をしながら書くことが多いので、登場人物も旅を通じて自分を見つめるべきだと思うことが多いですね。人間というのは絶えず変わっていくものなので、人生に導かれるままに動かないと。

そこで、今回の作品『ポルトベーロの魔女』の主人公アテナには、自己を見いだすために世界を放浪させることにしたんです。心の旅になぞらえて、体の旅をする。自分はなぜ生きているのか、なぜこの世をさすらうのか、その意味をより深い次元でつかむには、実際に旅をしてみるしかないのです。
———作家になられたのは40歳という遅いデビューでしたが、きっかけは?
作家になりたいという夢は持っていましたが、実践的な一歩を踏みだしていませんでした。しかし、1982年にアムステルダムで師(マスター)と出会い、彼の話を聞いて、私の魂がゆっくり目覚めたのです。そして一連の儀式を経て4年後の1986年にサンチャゴへの巡礼に出ることができました。

その旅で初めて、自分が幸せでないことがわかってきた。これはなんとかしなければいけないと思ったわけです。そしてゴールに到達するのに、面倒な手続きを踏む必要はないと気づいたのです。山に触れるのに、山を理解しなければいけないという道理もない。山をじっと見るだけで、神とつながることはできる。

旅から帰ると、気が抜けたようになってしまって、元の生活になかなか戻れませんでした。一方で、今すぐに生活を変えなければと焦っていました。しかし変化というのは準備が整うとやってくるもので、そのときは数カ月かかってようやく目が覚めました。自分は本を書くことだけに専念しなければならないと。それで夢に向かって最初の一歩を踏みだしたわけです。
———1988年に出版されベストセラーとなった『アルケミスト』は、全世界で数千万人の読者に支持されています。その理由について、どうお考えですか?
自分の作った登場人物たちが、世界の異なる地域や文化の中でこれほど人気を集める理由は、正直なところ、私自身にもよくわかりません。

私の場合、本を書く秘策というのはないのですが、常に自分自身に多くの制約をかけています。日々研鑽(けんさん)し、他者を思いやり、自己を理解しようと真摯(しんし)に努める、とでも申しましょうか。

本を書くときには、毎回異なる角度から自分自身へのアプローチを試みます。『アルケミスト』の場合は、例えば、書くことが私にとってどんな意味を持つのか、自分に向かって説明しようと考え、寓話形式にしました。一方、『ポルトベーロの魔女』では、神の女性的な側面を探りたいと考えました。母なる神(グレートマザー)の懐に飛びこんでみたかったのです。

Next 新刊『ポルトベーロの魔女』で最も伝えたかったこととは?

「ポルトベーロの魔女」 パウロ・コエーリョ 武田千香訳 角川書店/2008年 1,890円(税込)

review

ジプシーの孤児だったアテナは、レバノンの裕福な夫婦に引き取られて信仰深く育った。自身に潜む予言的な力の存在に気づき、自らの存在意義と生きる目的を見つける旅を始めるアテナ。ロンドンの銀行で働き、ドバイで不動産販売に携わり、そして師との出会いで彼女の才能は開花していく。アテナの霊視が大衆を熱狂させる一方、保守的な宗教団体との間には不穏な空気が色濃くなり、やがて“ポルトベーロの魔女”と呼ばれる惨殺事件が起こる…。

profile

1947年ブラジル・リオデジャネイロ生まれ。大学の法学部に進学するも、70年、突如世界を巡る旅に出る。2年後、ブラジルに帰国して流行歌の作詞を手がけるようになり、音楽とジャーナリズムの世界で活躍。しばらくレコード制作を手がけるが、79年、再び世界中を旅し、87年『星の巡礼』を発表して作家デビュー。88年刊行の『アルケミスト』は世界中で大ベストセラーとなった。現在も旅を続けつつ精力的に執筆活動中。

バックナンバー