藤原道長の娘の彰子が京極殿(道長の邸宅)に住んでいたとき、南面の桜がなんともいえず美しく咲き乱れていた。そのときたいそう気高く神さびた声で、
こぼれて匂ふ花桜かな
と詠む声がした。声を聞いた彰子は「どのような人がいるのだろう」と簾の中から見たけれど、誰もいない。みんなにあたりを捜させた。だが、誰もいなかった。その結果、〈鬼神などでも言ったことか〉と怖れていた。
兄の頼通にこの不思議なことを伝えると、「あの場所ではいつもそのように歌を詠むのです」との返事。彰子はますます怖れおののき、その後は近くにも寄らなくなったという。『今昔物語集』の霊鬼の巻(巻第二十七)に収録されている説話である。鬼が詠んだ歌は、『新撰万葉集』などに見える、

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