北海道の中央部に位置する深川市に桜山という名の山がある。桜山という名称が示すように、桜の季節になると、山全体が桜であった。北海道は桜の咲くのがだいたい五月である。大人たちは桜の下でゴザを敷き、酒盛をするのだが、鬱蒼と茂った桜の木の下は太陽が射さず、薄暗かった。花冷えというのであろうか、肌寒さを感じるのが常であった。そして、桜の季節が終わると、桜山の少し大きな石の下には必ず何匹かの大きな蛇がいた。
私は、桜というと、どうしてもこの肌寒さと薄暗さを切り離して考えることはできない。だから、梶井基次郎が小説『桜の樹の下には』で「桜の樹の下には屍体が埋まつてゐる!これは信じていいことなんだよ」と言った感じが理解できるのである。坂口安吾は小説『桜の森の満開の下』で「花の下は冷たい風がはりつめてゐる」といい、女の屍体も男の体も消えてしまい、「あとに花びらと、冷たい虚空がはりつめてゐるばかり」であったと記していた。近代の作家たちも桜には一種異様な雰囲気に引きずりこまれていたらしい。
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